ダボスは、中央集権化の弊害に目を覚ます必要がある:CoinDeskチーフコンテンツオフィサー【世界経済フォーラム】

ダボスは、中央集権化の弊害に目を覚ます必要がある:CoinDeskチーフコンテンツオフィサー【世界経済フォーラム】

Brady Dale
公開日:2020年 1月 21日 06:00
更新日:2020年 1月 21日 08:05

ダボスのエリートが見落としている問題

世界経済フォーラム(WEF)のために、スイスのダボスに世界で最も影響力があると自称する人々が集う。彼らの頭に浮かんでいる一連の問題は予想通りのものだ。WEFが公表したばかりの「グローバル・リスク報告書2020年版」によると、気候変動、政治の両極化、貿易における緊張、サイバー攻撃が懸念事項の上位を占めている。

これらは深刻な問題だ。しかし、仮想通貨やブロックチェーン技術が推し進める分散化の考え方で見てみると、重要な問題が見過ごされていると結論づけることは難しくない。そして議論されていない問題にこそ、真に重要なものが潜んでいる。

インターネットによる仲介業者の排除、分断化、分散型の影響は、21世紀の政治・経済構造をそれ以前のものとは大きく変えた。しかし、政府や企業の動かしているベビーブーマー世代はまだ、中央集権型のマネーと権力に関する20世紀的な前提を当てはめようとする傾向がある。彼らは、我々の時代遅れの政治・経済制度が新しい現実とずれてしまっていること、そして、そうした制度がますます信頼を失っているわけを理解できずにいる。またこれは、仮想通貨、ブロックチェーン、デジタルID技術を構築している開発者たちが静かに生み出しつつある代替的な分散型モデルを認識し、ましてや理解できないことが多い、先見の明の欠如を表している。

1週間にわたってダボス会議の様子を報じるにあたり、「ダボスに集うエリートたち」が見落としているかもしれない問題のいくつかを考えてみたい。

こうした問題に最も影響を受けるのは、カクテルを楽しむエリートではなく、普通の人たちであることは忘れてはならない。2020年は、過去数十年で最も対立的なアメリカ大統領選挙の年になるかもしれない。論争好きな我々のリーダーがこれらの重要なテーマに注力していないとすれば、我々は4年後にはどうなっているのだろうか? 投票の際にはこうした問題を考える必要がある。

デジタル人民元のインパクト

中国は2020年のどこかの時点で、デジタル通貨をローンチする見込みだ。十分に検討されていない疑問は次の通り。すなわち、このプロジェクト──そして、おそらく他国民間企業が生み出すであろう多くの他のデジタル通貨プロジェクト──の発展は、ドルを基軸としたグローバル経済と、その多数の関係者にとって何を意味するのだろうか?

デジタル法定通貨は、国際貿易と資本の流れにどのような影響を与えるのだろうか?

ドル、そしてその延長としてのアメリカの経済力に対する競争上の脅威となるのだろうか?

そうした変革は、例えば、二酸化炭素の排出量が多い資産へのオイルマネーの投資、国際貿易における緊張など、ダボスに集うエリートたちが懸念する、巨額の富が絡む問題に国際社会が対処するやり方にどのような影響を与えるのだろうか?

デジタル人民元は、先進的な紙幣、あるいはモバイルバンキングや決済アプリの国家バージョンのような表面的な変化のように見えるかもしれない。中国のデジタル通貨技術に対する中央管理的なアプローチは、ある意味ではビットコインの根底にある分散型モデルへのアンチテーゼだが、根本的な変化であることに変わりはない。

「ソフトウエアは世界を飲み込んでいる」

2つのことが重要だ。1つ目、デジタル法定通貨は銀行がフローを管理することなく流通する。2つ目、プログラム可能であること。つまり、現状のアナログの通貨よりもはるかに強力なものになることを意味する。Webブラウザの開発者として知られるマーク・アンドリーセン(Marc Andreessen)氏は「ソフトウエアは世界を飲み込んでいる」と語った。ソフトウエアとしてのマネーは、世界を食い尽くすだけかもしれない。

デジタル通貨によって中国政府は、国民の支出パターンを直接管理し監視できるようになる。この「全展望監視システム」構想の背後にある恐ろしい監視の可能性は別として、この情報収集力は中国の国際的野心を大きくサポートすることになる。中国のデジタル通貨は、他のどの国が利用するものよりもはるかに優れたデータ分析システムによって運用される。

「プログラム可能な」人民元は、数百もの中国のブロックチェーンおよびスマートコントラクトプロジェクトが必要とする、決済における最後のコンポーネントを提供する。自律マシン、マイクロペイメントインフラ管理システム、スマートシティ、そして西側諸国が追随できないような他のアイデアが可能になる。

筆者が以前伝えたように、通貨がプログラム可能で、他国の法定デジタル通貨と相互運用が可能な場合には、中国企業やその海外パートナーはドルベースの貿易システムをダイレクトに回避できるようになる。

現在、人民元は国際貿易と準備金資産の保有において、わずかな量しか占めていない。だが、この技術はドルを置き換える可能性を持ち、仮に中国がアフリカあるいは65カ国をカバーする一帯一路構想での投資プロジェクトに積極的に導入すれば、その国際的な利用は急速に増加する可能性がある。

ハーバード大学とMITによるシミュレーションでは、デジタル法定通貨はアメリカが「ならず者国家」に制裁を科す能力を無力化する可能性があることを示した。だが、問題はそれだけに留まらない。仮にドルではないデジタル法定通貨によって、アメリカの規制当局が国際犯罪者を捕まえるために利用している、アメリカの銀行を回避することができるとすれば、誰が国境を越えて資金を移動させるために銀行を利用するのだろうか? そうなった場合、アメリカの経済力を生み出すウォール街はどうなるのだろうか?

米商品先物取引委員会(CFTC)のJ・クリストファー・ジャンカルロ(J.Christopher Giancarlo)元委員長など一部の人々は、アメリカの経済的リーダーシップに対するこの脅威を認識している。しかし中国のデジタル通貨における優位性は、多くのリーダーたちには注目されていないようだ──民主党の大統領予備選挙では明らかに論戦のテーマになっていない。

だからこそ、ダボスで話し合おう。

デジタルプライバシー

確かに、オンライン上の個人データへの脅威となっているインターネット時代のプライバシーの問題は、おそらく今年のダボス会議で適切に取り扱われるだろう。

ケンブリッジ・アナリティカ(Cambridge Analytica)のスキャンダル、エドワード・スノーデン(Edward Snowden)によるNSA(米国家安全保障局)の国民監視システムの暴露、グーグルなどのシリコンバレー大手企業が我々の生活を管理しているという認識の高まりは、プライバシーの問題を中心テーマに押し上げた。プライバシーの問題はその価値がある。

問題は、この危険な監視資本主義システムを支える構造的な要素があまり理解されていないことにある。

フェイスブック(Facebook)やグーグルが繰り返し引き起こすデータの不正利用に対する政治的リアクションのほとんどは、結局、指導者たちがこれらの企業を非難し、時には罰金を課したり、行動の是正を求めることに終始する。本質的に、これらの企業は行動を正すことはできないということを理解できる人はほとんどいない。クローズドで、相互運用不可能なデータの「ウォールド・ガーデン(壁に囲まれた庭)」を持ったこれらの企業は、人間の生活に関する情報を密かにシステマチックに抽出することの上にビジネスモデル全体──そして株主の利益への期待──を構築してきた。

もう1つの問題は、これら企業の姿勢を変えようとするその場しのぎの取り組みは、これらの企業に課せられた他の要求と対立することだ。

フェイスブックのデジタル通貨プロジェクト「リブラ(Libra)」に対する政治家たちの批判における矛盾を見てほしい。彼らは一方で、ユーザーのプライバシーを守るよう求めているが、同時にマネーロンダリングの防止に必要なあらゆる監視を維持することを求めている。あるいは、フェイスブックを批判する人々はヘイトスピーチの削除を要求すると同時に、ユーザーを恣意的に検閲し、「デプラットフォーミング(プラットフォームから排除すること)」をやめるよう求めていることを考えてみて欲しい。問題を理解していなければ、この双方のポジションを維持することはいかに難しいことかはわからない。

この問題には2つのアプローチがある。1つ目は、インターネット大手を制約するアンチトラスト命令のような政治的なアプローチ。2つ目は、ソーシャルメディアプラットフォームが分散型のユーザーコントロール構造に移行するという技術的なアプローチだ。例えば、ゼロ知識証明や他の先進的な暗号化形態が個人情報を明かすことなく認証を可能にするようなことだ。

ダボスで、こうした選択肢を議論しよう。

フェイクニュース

フェイクニュースは問題だと思っているとしたら、あなたはまだ何もわかっていない。

アリフ・カーン(Arif Khan)氏が述べたように、フェイクニュースは強化されている。

問題を浮き彫りにするために巧妙な技術を使ったジョーダン・ピール(Jordan Pele)氏などの人々によって、「ディープフェイク」──デジタル動画や画像に加えられた、真実を曲げる変化を検知することをますます困難にしている画像操作技術──は、人々の注意を集め始めている。

だが社会が、信頼できる情報の力にどれほど依存しているのか、その全体像は十分に評価されていない。我々の民主主義、法制度、ビジネスにおける関係、そしてそれらの間にあるすべては、真実が立証できなければ危機に晒される。

AI(人工知能)がきわめて急速に進歩し、情報がもはやマスメディアなどの中心的なフィルターを通して我々に届けられなくなっている時に、どうすればこの問題に対応できるのだろう?

解決策には、AI検知ソフトウエア、電子透かし、デジタルメディアの履歴を追跡するブロックチェーンベースのツールなど、さまざまなツールの組み合わせが必要となる。

さらに、テック企業、メディア、政府機関などのステークホルダーがこうした技術の基準を共同して確立する必要もある。そうすることで我々は、我々が依存する情報の完全性を再構築する方法についてすべて合意できる。

これは緊急課題であり、マネーと権力が集まるダボスにぴったりだ。

現実を見据えよう。探究心を持とう。頑固で時代遅れな考え方を捨てよう。そして、ダボスに集まる時代遅れで、知ったかぶりのエリートたちにサヨナラを言おう。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Davos 2019 image via Aaron Stanley for CoinDesk
原文:Davos Needs to Wake Up to the Ills of Centralization