BISレポート:P2P決済、証券のトークン化、中央銀行デジタル通貨を考察【国際決済銀行】

国際決済銀行(BIS:Bank for International Settlements)の研究者らは決済の未来に取り組んでいる。3月1日に発表された最新の四半期レポートは、この革命の可能性についてそのページのすべてを費やした。

優先事項

金融の未来の先に広がるものを考察した138ページのレポートで、スイスのバーゼルに拠点を置くBISは、未来の決済インフラを形成するあろう来るべきトレンドを検討した。すなわち、証券のトークン化、中央銀行デジタル通貨、クロスボーダー決済、ピアツーピア・イノベーションなどだ。

BISの研究責任者、ヒュン・ソン・シン(Hyun Song Shin)氏は「変化の速度と創造的破壊の可能性」によって、決済システムの新しい形態を検討することは政策立案者にとって優先事項になったと語った。

「決済を改善するための最も変革的な選択肢は、支払い手と受け取り手を直接つなげ、仲介業者の数を最小限に抑えるピアツーピアの仕組み」とBISのアグスティン・カルステンス(Agustin Carstens)総支配人はレポートの前文に記した。

証券のトークン化

ブロックチェーン上で証券をトークン化することは、決済サイクルを効率化し、一部の投資家が望んで負担するもの以上に効率的なものになる可能性があるとレポートには記されている。

この逆説的にも思える結論は、すでに停滞している決済サイクル──さまざまな障壁、仲介業者、流動性マネジメントの懸念に陥っている──にトレーダーは順応しているというBIS研究者らの予想から生まれている。トレーダーはこうした制約のもとで投資を行っている。

例えば、DLT(分散型台帳技術)、いわゆるブロックチェーンベースのシステムが仲介業者を省くことでシステムを創造的破壊(ディスラプト)するなら、結果としてもたらされる効率性は市場のバックエンドの現実を変え、古い方法がもたらす結果に慣れた利害関係者を動揺させる可能性がある。

「市場参加者は、より短い決済サイクルへの移行を望まない可能性がある。移行により、流動性要件が高まり、決済に必要な現金や証券を調達するためにマーケットメーカーに与えられる時間が少なくなる可能性があるため」とレポートは指摘した。

このリスクとリターンをめぐる難題は、証券化の未来をより幅広く掘り下げる研究者らの取り組みと対立する。BISのチームは将来を見据えるにあたり、セキュリティトークンをめぐる現状の法的な問題など、ブロックチェーンベースの証券の導入以前に解決すべき短期的な問題を数多く見出した。

そうした問題が解決されたとしても、運用上のリスクといった問題に関するさらなる疑問は残る。レポートによると、ブロックチェーンやスマートコントラクトは清算や決済の世界では「まだ証明されていない」ためだ。現在普及している口座ベースのシステムにも取り組まなければならない。

「トークン化されたシステムにとっては、口座ベースのシステムと相互運用する能力が成功の鍵となるだろう」と研究者らは述べた。

中央銀行デジタル通貨

証券のトークン化に関する研究者らの仮定は、国際決済における革命の可能性に全ページを費やした四半期レポートの未来志向の特徴の1つに過ぎない。

銀行業界の大きな話題の1つはデジタル通貨だ。BISは中央銀行デジタル通貨(CBDC)に数多くの疑問を投げかけている。

リテール向け、あるいはホールセール向けに焦点を当てるべきか? アカウントベースかトークンベースか? ブロックチェーン、中央集権型モデル、ハイブリッドシステムのいずれで運用すべきか? そして、CBDCはそもそも必要なのか?

BISは「リテール向け中央銀行デジタル通貨の技術(The technology of retail central bank digital currency)」というセクションで、こうした疑問に断定的には答えていないが、研究者らはそれぞれに関する検討事項を書き出している。

例えば、既存の決済システムに勝るメリットがないデジタル通貨を開発することに意味はないと研究者らは明確に述べた。消費者は現金やクレジットカードよりも不便なCBDCを使うことはなく、小売業者は「需要のピーク時」に対応できないシステムを許容することはない。

ここがブロックチェーンベースのCBDCが行き詰まる可能性のあるところと研究者らは指摘した。コンセンサスメカニズムはしばしばトランザクションスループットを遅延させ、1日に数百万件の、多くは少額決済を処理しなければならないリテール向けシステムにとっての潜在的な問題となる。

そうだとしても、ホールセールシステム──銀行と主要取引先の間の大規模決済システム──は、ブロックチェーンのコンセンサスメカニズムの制約に、より容易に適応する可能性があると研究者らは述べた。

CBDCシステムはどの程度分散化しているかも問題だ。分散化は失敗やエラーの原因が集中化するリスクを排除する。だが新たな脆弱性の可能性も高くなる。

「従来のアーキテクチャの主な脆弱性は、例えば、標的型ハッキング攻撃などによるトップノードの不具合にある。ブロックチェーンの主な脆弱性はコンセンサスメカニズムにあり、例えば、サービス妨害攻撃(DoS攻撃)による脅威にさらされる可能性がある」

出典:BIS四半期レポート

銀行家はブロックチェーンとCBDCについての議論を続けている。BISの研究者らが指摘した通り、既存のトライアルは「必ずしも希望を与えてくれるものではなく」、ブロックチェーンは一部の人々が主張するような解決策ではないという懸念を公に表明している中央銀行関係者も存在する。一方、ブロックチェーンベースのCBDCのトライアルを推進している銀行も確かに存在する。

決済

BISのカルステンス総支配人は前文で、世界は本質的に、新しく、これまでとは異なるバックエンド決済インフラがもたらす影響を検討する必要があると述べた。リブラは中央銀行の取り組みを本格化させた。だが最終的に何を目的としているのか、あるいは一部の人が語るようにステーブルコインは金融の破滅の前触れなのかは依然として不透明なままだ。

BISはこの問題は長く続くもので、答えは出ていないと位置づけた。国際的な対応の必要性を強調し、最近設立した「イノベーション・ハブ(Innovation Hub)」をそうした回答が生まれる場と表現した。

「イノベーション・ハブ」は、デジタルイノベーションをめぐる枠組みを構築するために銀行家や政策通と連携していく。BISによると、イノベーション・ハブはスイス、香港、シンガポールに拠点を持ち、異なるネットワーク間で一貫性のある政策を構築することに適したポジションにある。

今回の四半期レポートは、イノベーション・ハブのデビューを飾るものだ。BISが想定しているように、イノベーション・ハブは決済やお金におけるデジタルイノベーションがもたらす問題を掘り下げていく。

最も哲学的な疑問を敬遠することもないとカルステンス総支配人はレポートで述べた。

「BISイノベーション・ハブの取り組みを特長づける重要な問題は、変化する環境に合わせて、お金そのものを再発明する必要があるのか、あるいはお金が提供され、利用される方法を改善する方法に重点をおくべきかにある」

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Wikimedia
原文:BIS Paper Reckons With P2P Payments, Tokenized Securities, Central Bank Digital Currencies