1970年代の石油危機以来、スタグフレーションの可能性──大揺れする原油、金、株、ビットコイン

ロシアのウクライナ攻撃が激しさを増すなか、世界経済が予想をはるかに超えたマグニチュードで揺れている。

ロシアがウクライナ侵攻を開始した2月24日にビットコイン(BTC)は大きく下げたが、2度の大きな上昇を経て、2月中旬の水準を取り戻した。3日19時現在、4万3200ドル近辺で取引されている。

イーサリアムは多くのNFTやDeFi(分散型金融)サービスの基盤ブロックチェーンとして利用されているが、そのネイティブトークンであるイーサ(ETH)もビットコインとほぼ相関した動きをしている。

一方、テクノロジー銘柄の多いナスダック(Nasdaq)株価指数は、侵攻が明らかになった24日始値を底に下落を挟みながらも値を戻している。市場では年初から、テック企業株などのグロース銘柄が売られ、バリュー(割安)銘柄に資金が集まる動きが見られた。

共同通信によると、NYMEXで取引されているWTI原油先物(4月限)は一時、1バレル=115ドルをつけて約13年半ぶりの高水準を記録。ロンドンの金先物は、1930ドル近辺で引き続き高値水準が続く。

原油、金、小麦、半導体、株式、ビットコイン……あらゆる市場で起きている価格の乱高下と、昨年後半に主要先進国を襲い始めたインフレ。そして、経済成長の鈍化が慢性化した日本を含むグローバル経済で聞こえ始めてきたキーワードが、「スタグフレーション」だ。日本のスタグフレーションは、1970年代の石油危機までさかのぼる。

スタグフレーション:景気が後退していく中でインフレーション(インフレ、物価上昇)が同時進行する現象のこと。この名称は、景気停滞を意味する「スタグネーション(Stagnation)」と「インフレーション(Iinflation)」を組み合わせた合成語(SMBC日興証券、初めてでもわかりやすい用語集より)

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これまで西側諸国が進めてきた脱炭素の動きも見直しが余儀なくされそうだ。ロシアは産油国であるとともに、天然ガスの輸出量は世界トップだ。大半が欧州向けであり、ロシアとの関係悪化が西側諸国のエネルギーサプライチェーンを逼迫させる要因となっている。

エネルギーサプライチェーンの逼迫

ブルームバーグによると、ドイツでは、ロシア産エネルギーへの依存低下を図る一環として、石炭の使用を長期化する動きが出ている。また、ロイターの報道によると、液化天然ガス(LNG)ターミナルを建設する計画も明らかになった。

欧州経済に詳しいニッセイ基礎研究所の高山武士准主任研究員は、「戦争を仕掛ける国から資源を購入し続けることはドイツ国民も受け入れがたい」とし、中期的には再生可能エネルギーへの転換を早めざるを得ない状況になっているとを指摘する。

技術発展ではなく、外部環境によって高いエネルギーを利用しなければならない状況について、「ロシアと地理的にも経済的にも結びつきが強い欧州諸国は、日本よりもスタグフレーションになる可能性が高い」と高山氏は指摘する。

ECB(欧州中央銀行)のラガルド総裁が「データ次第」としていた利上げも、直近には実施されなさそうだ。早ければ6月といわれていたが、ウクライナ情勢から、高山氏は「2022年内は行われないだろう」と予測する。

日本は、アメリカやEUと足並みを揃えて、ロシアへの経済制裁を進めている。天然資源や穀物の輸出大国であるロシアの生産や貿易が滞ることは、近い将来の消費者物価の上昇を招く公算が高い。

ただ、激しい戦闘状況の一方で、貿易の規模や距離から、日本の消費者が影響を肌で感じる瞬間は、まだ少ないかも知れない。

値をもどすビットコイン

ビットコイン価格は、ロシアの侵攻が明らかになった直後に大きく下げたものの、すぐに以前の水準まで戻している。特に、日本時間2月28日から3月1日にかけては、米国株が横ばいだったにも関わらず、大きく上昇した。

(1カ月間のビットコインチャート/coindesk JAPAN)

ウクライナでは、USDT(テザー=米ドルに連動するステーブルコイン)にプレミアム(上乗せ価格)がついていても取引されている状況が見られた。暗号資産と株式市場の動きが乖離した理由を「暗号資産の実需要の増加」と指摘するのが、bitFlyerで執行役員を務める加藤崇昭セールストレーディング室長だ。

加藤氏は、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーを経て、シティグループ証券で株式業務責任者を担った。「コモディティはトレンドが始まるとなかなかとまらない」と加藤氏。原油価格について、「過去最高値(=147ドル)を更新する可能性もある」と付け加える。

また、ロシアとウクライナは穀物の輸出国でもある。ロイターによると、欧州向けの肥料は25%がロシアから供給されているという。食料品の価格高騰も避けられない。日本の消費者は、「3カ月もしくは半年後にパンの値段が上がったとき、初めて実感するだろう」と加藤氏は話す。

アメリカに比べて成長余力の低い日本は、スタグフレーションに陥る可能性が高くなるという。日本円の価値についても、日本円で物を交換することがなくなっており、取引量の低下を懸念する。

個人投資家について、「インフレを本格的に感じるようになったところで、資金をどこに振り向けるか考えなければいけなくなる。これは大きな流れになる」と予測する。

|取材・テキスト:菊池友信
|編集:佐藤茂
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