ビットコインと株価の相関関係:よくある誤解を解く【コラム】

「ビットコインは相関関係を持っている!」

こんなセリフを、会話の中でよく耳にする。本当は「代替」資産などではなく、広範な経済とは関係無いなどというのはたわ言で、根拠のない希望に過ぎないというような、否定的な意味で使われるのだ。

このような発言をする人の中で、データを深く掘り下げたり、その主張の背後にある根拠についてしっかりと考えたことのある人はほとんどいない。私も、ビットコイン(BTC)とS&P 500の相関係数の高まりは、昨年下半期に機関投資家たちが市場に相次いで参入したからだと考えていた。

今では、そうではない気がしている。機関投資家の参入は確かに起こったし、ビットコインはおおむね、マクロ資産となった。しかし、そのことが相関係数のデータを突き動かしているとは思えないのだ。

相関係数

異なるストーリーを伝えるチャートを見る前に、まず相関係数が実際に何を意味するのか、なぜ大切なのかを考えてみよう。理論的には、相関係数とは単に、2つの動きが関係する程度を測る指標だ。

2つの指標が一緒に変化する程度を、個々に変化する程度で割ることで算出される。(異なる方程式による異なるタイプの相関関係もあるが、ここでは深入りしない。気になる人向けに言っておくと、私はピアソンのローリング60日間の相関係数を使っている)

お互いのクローンである2つの資産があると想像してみよう。個々に動く程度は、一緒に動く程度とまったく同じであるため、これら2つの資産の相関係数は1である。相関係数がマイナス1の場合は、完全に反対方向に動く。相関係数が0というのは、2つの間に明らかな関係がないことを意味する。

現実には、このような「完璧」な状況は存在しない。相関係数は通常、強い、あるいは弱い関係を示唆する不規則な動きの組み合わせである。投資家は比較的堅固なポートフォリオ戦略を立てるために、アナリストやジャーナリストはトレンドの変化を見極めるために、相関係数を使う。

しかし、多くの人は相関係数を二元的なものとして扱うという罠に陥る。何かが「相関関係を持っている」と言うのは、曖昧で不正確だ。相関係数が高い、相関係数がマイナス。こういった表現は意味が通っているが、それでも、ある特定の時点においてのことだ。市場の関係、とりわけビットコインのような新しい資産を取り扱う場合、変化は急速だ。

もう1つよくある落とし穴は、相関係数の高低が行動を説明してくれると考えること。ある程度これは正しいのだが、多くの場合、相関関係があったとしても、それは偶然だ。アイスクリームの売り上げと、日焼けの件数は相関係数は高いが、どちらかがもう1方を説明することはない。

ムードの変化

ビットコインに話を戻そう。以下のチャートからも分かる通り、ビットコインはかつて、S&P 500との相関関係はほとんどなく(相関係数はゼロ付近を推移)、機関投資家が参入してきて、11月に史上最高値を更新した頃もそうであった。しかし、2022年4月に何かが変化した。

ビットコインとS&P 500の相関係数の推移
出典:Coin Metrics

何が変化したのか?全体的な市場のムードだ。相関係数というのは、値動きの規模というよりは方向に関するものだ(どちらも大切だが)。

以下のチャートは、BTCとS&P 500の60日間相関係数が、上に向かう時にゼロを通過するまでは、2つの資産は足並みを揃えて動いているように見えて、本当はそうではなかったことを示している。4月4日までに、S&P 500は前年比で0.7%ダウン。一方のBTCは、7.5%の値下がり。それまでの60日間は、それぞれに異なるトレンドを示している。

ビットコイン(橙)価格とS&P 500(青)の推移
出典:TradingView

ムードの変化を引き起こしたのは何だろうか?金利の見込みだ。実際の金利は0.25〜0.5%だった2022年4月上旬に、2.5%を超えるFF金利が、わずかながら可能性を持つようになったのだ。

金利変動の可能性を分析するCMEグループのFedWatchツール
出典:CME

これに市場は驚愕し、それまでの9〜10カ月間の間に暗号資産市場へと参入してきたマクロ投資家たちは、急いで退散していった。暗号資産(比較的売却が簡単なハイリスク資産)を清算しただけでなく、株式からも撤退。

価格は全面的に値下がりし、ビットコインとS&P 500の60日間相関係数は、史上最高の0.72まで急激に上昇。リスク回避に走ったのはマクロ投資家たちだけでなく、暗号資産ファンドマネージャーたちも、全般的な市場の低迷を見越して退出していった。

相関係数が急上昇したのは、ビットコインが「マクロ資産」になったからではない。ビットコインの一般的なポートフォリオへの登場は、前年までにある程度確固としたものになっていたのだ。

他のリスクの高い資産と並んでビットコインが、金融引き締め政策の見込みに打撃を受けたから、相関係数が急上昇したのだ。表現の仕方の問題かもしれないが、それでも重要だ。

日焼け止めとアイスクリームはある時期に、どちらも売り上げが同じように推移するが、日焼け止めのメーカーが、アイスクリーム製造業者とはまったく異なるビジネスにいるのと同じ理由で、重要なのだ。

そして5月中旬、ステーブルコインエコシステム「テラ(Terra)」が崩壊した。これは暗号資産の危機であり、当然ながら、暗号資産価格へのダメージが株式へのダメージをはるかに上回ったため、相関係数は下がった。

ヘッジ・ファンドのスリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)の破綻によって引き起こされたデレベレッジが、さらなる相関係数の低下を招いた。

ビットコインとS&P 500の相関係数の推移
出典:Coin Metrics

「マクロ資産」としてのビットコイン

そこを通過した後、相関係数は再び上昇している。しかし一般的な見方とは異なり、これは必ずしも、ビットコインと株式が一心同体になったからではない。

「恐怖の時期には、あらゆる相関係数は1になる」という古い格言がある。今は恐怖の時期だ。しかし、ビットコインと株式の価値の前提は大いに異なっており、相関係数が高いまま推移すると想定することはできない。

ビットコインは今や、グローバル市場の一部だという意味では、マクロ資産である。しかし、あらゆるマクロ資産が高い相関係数を持っている訳ではない。

いつの日か恐怖が落ち着けば、価値提案の異なる株式と暗号資産の相関係数は再び低水準になる可能性が高い。そうなると「代替的」マクロ資産というナラティブが裏付けられることになる。

そうなる前でも、最近の暗号資産関連の破綻の混乱が収まり、国際的な株式の見通しが悪化を続け、ドルを保有することのリスクが高くなるに伴い、投資家たちが資産グループの相対的な下落傾向に関する見通しを調整するかもしれない。その結果資産が動けば、相関係数やナラティブが変化し、相関係数にさらに影響を与える新しい勢いが生まれるかもしれない。

今もこれからも、「ビットコインはマクロ資産だ」と言うとは正しい。しかし、「ビットコインには相関関係がある」と言うにはもう少し慎重さと説明が必要だ。とりわけ、数字で表される関係は今のところ便利かもしれないが、多くの人が考えることとは意味が違う、と強調することが大切だ。そしてその関係は、間違いなく変化していくだろう。

ノエル・アチェソン(Noelle Acheson)氏は、CoinDeskの元リサーチ責任者。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Bitcoin Is Macro, but Not ‘Correlated’ in the Way You Think