リブラが開けたパンドラの箱──b. tokyo2019後に加速するか、貨幣と証券の新時代

リブラが開けたパンドラの箱──b. tokyo2019後に加速するか、貨幣と証券の新時代

Brady Dale
公開日:2019年 10月 5日 07:30
更新日:2019年 10月 5日 07:30

フェイスブック(Facebook)が主導し、ブロックチェーンを使う新たなデジタル通貨「リブラ(Libra)」構想は、多くの人が法定通貨の覇権と既存の金融システムのあり方を再考しようとする歴史的なきっかけを作った。

政治家、中央銀行、金融規制当局、銀行、企業、学校……。リブラのホワイトペーパーが6月18日に公開されて以来、あらゆる人たちがブロックチェーンが可能にする「新しいお金」にまつわる「新たな世界」の話をするようになった。

10月2日〜3日、のべ約2000人が、東京・目黒で開かれた国内最大級のブロックチェーンカンファレンス「b.tokyo」に参加。「リブラ・ウォレット」の開発を進めるフェイスブック子会社、カリブラ(Calibra)のセッションには約600人がフロアを埋め尽くした。

スポットライトを浴び、ステージのソファーに座ったカリブラ・ビジネス開発ディレクターのキャサリン・ポーター氏が、チャーミングな日本語を交えながらリブラの世界を語ると、オーディエンスは彼女の一言一句に耳を傾け、新たなデジタル通貨が作る世界を考えた。

関連記事:米国市場参入、著作権管理…LINEのブロックチェーン統括が明かした戦略

米ドルの覇権

カリブラ(Calibra)・ビジネス開発ディレクターのキャサリン・ポーター氏(撮影:多田圭佑

「リブラはパンドラの箱を開けた」

b.tokyoの参加者から、そんな言葉が聞こえてきた。

リブラのフィロソフィーにフィナンシャル・インクルージョン(金融包摂)があるが、リブラが登場すれば、金融サービスを受けられない世界17億人が、金融サービスにアクセスできるようになる。国際送金や支払いはより安く、より速く行うことできるようになる。

一方、リブラは世界の「規制の壁」に直面している。この規制の壁を乗り越えなければ、この新たなデジタル通貨は産声をあげることはできない。また、中国がデジタル人民元の開発を進める中、長年世界を支配してきた米ドルを誇るアメリカにとってはリブラに対する考え方も他国とは異なるだろう。

他国に経済制裁を課す上で米ドルの強さを誇示するアメリカは、ドルに対抗し得るデジタル通貨の台頭を黙って見過ごすことはない。

「マネーロンダリングに悪用される」「世界の金融の安定性を脅かす」

各国規制当局からのリブラに対する懸念の声はあとを絶たない。ポーター氏は「中央銀行と規制当局にリブラの考え方を理解してもらい、強調していくことが重要」とした上で「長い道のりになるだろうが、世界中に広めていきたい」と加えた。

ポーター氏は、2020年中のスタートを目指すと話し、リブラのホワイトペーパーに記された当初のタイムスケジュールを維持する考えを伝えた。

関連記事:トヨタ、ユニクロはリブラを活用できるのか?──Facebookのカリブラ幹部が東京で講演

脚光を浴びるSTO——その光と影

セキュリタイズ(Securitize)共同創業者兼CEOのカルロス・ドミンゴ氏(撮影:多田圭佑)

「大きな流れとして(有価)証券のデジタル化は避けられない。ポテンシャルがあると考える」

三菱UFJ信託銀行経営企画部の齊藤達哉氏は、b.tokyoのSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)をテーマに置いたセッションで述べた。

事実、日本の金融界を牽引する三菱UFJフィナンシャル・グループと野村ホールディングスは、ブロックチェーン上でデジタル化された証券の発行や管理などを手がける米セキュリタイズ(Securitize)に出資。今後の国内における有価証券のデジタル化と、新たな流通基盤の開発に勢いを与えた。

デジタル化された証券には、発行体と投資家の双方にニーズがある。外部環境の変化が激しい中、発行体は従来の調達手法よりも柔軟に早く広く資金を集められる仕組みを求めている。

機関投資家としても利回りが下がる中、一方で業務コストが上昇しているため「ビジネスを維持するためには、デジタルに向かわざるを得ない面がある」と齊藤氏は語った。

10月1日、SBI証券や野村證券、大和証券など証券6社が、自主規制団体となる「日本STO協会」を設立。金融大手は2020年春に控える改正金融商品取引法の施行をにらみ、STO市場に参入する動きを見せている。齊藤氏は「適正な規制環境が整いつつあり、金融機関も検討しやすくなっている」と述べた。

規制の壁

期待の一方で、ブロックチェーン上で管理されるデジタル証券には課題も多い。事実、STOの調達額は世界でまだ約300億円に留まっている。

証券をデジタル化(トークン化)するだけでなく、グローバルなデジタル通貨もトークン化する必要がある。裏付け資産と証券(権利)の紐付けは、技術のみでは実現できない。法規制を始めとした枠組みを整える必要がある。

効率的でグローバルな資金調達・流通には、最終的には各法域ごとの規制をプログラムで執行できる必要があるが、それを適正なものとして受け入れられるかといった課題もある。

また、これまで証券化しなかった「資産」を証券化できても、どれほどの規模になるのか。投資家にとって、魅力的な投資商品になるのかは疑問だ。

関連記事:LINEの仮想通貨取引サービスを開発したシンプレクスが考える「STOのメリットを生かすために必要なこと」

KPMGコンサルティング執行役員・パートナーの椎名茂氏は言う。

「情報のインターネット時代を彷彿とさせる、価値創造のネットワークの新時代が開かれてきたのではないだろうか。ブロックチェーン・暗号資産の世界で、ビジネスを真剣に考える人が増えてきたことを実感した熱い2日間だった。しかし、本番はこれからだ」

CoinDesk Japan編集部:佐藤茂、濱田優、小西雄志、増田隆幸、T.Minamoto
写真:東京・目黒で開催されたブロックチェーンカンファレンス「b.tokyo」(撮影:赤藤央伸)