ハードフォークが迫る中「ディフィカルティボム」のタイミングを再検討──イーサリアム開発者ら

新たに提案されているイーサリアムのハードフォークは、イーサリアムのプルーフ・オブ・ステーク(PoS)への移行を複雑化することを避けるために、重要なネットワーク機能の稼働を2年先まで延期するかもしれない。

1月にもハードフォークを予定

ハードフォーク「イスタンブール」が目前に迫る中、11月中旬に作られたイーサリアム改善提案(EIP)2387は「ディフィカルティボム」あるいは「アイス・エイジ」を400万ブロック、あるいは約611日先延ばしするために、新たなハードフォークを暫定的に1月6日に予定している。

このハードフォークは「ミュアー・グレイシャー(Muir Glacier)」と呼ばれている。後退を続けるアラスカの氷河にちなんだ名称だ。

906万9000ブロックで予定されているこのハードフォークは、コンセンサス・メカニズム「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」に基づく現行のチェーンから、Eth 2.0と呼ばれる「プルーフ・オブ・ステーク(PoS)」への移行の第1フェーズである「ビーコン・チェーン(Beacon Chain)」の間の橋渡しにもなっている。

EOS、バイナンス・チェーン(Binance Chain)、サブストレート(Substrate)といったネットワークがイーサリアムからプロジェクトを奪おうとしている中、開発者らは2019年11月29日(現地時間)、Eth 2.0への移行に伴って現行のチェーンの健全性を保つことについての懸念を電話会議で表明した。

事態をさらに複雑にしているのは、イーサリアムの次の大きなハードフォーク「イスタンブール(Istanbul)」が12月7日に予定されていることだ。

開発者会議大まかな意見の一致をみた後でその可能性は低いと思われるが、開発者らがミュアー・グレーシャーに関して早々に合意できなければ、ブロックタイムは上昇を続け、取引手数料はユーザーを締め出し、現行のネットワークの能力は制限される。

ディフィカルティボムとは?

2015年に組み込まれたコード「ディフィカルティボム」は、イーサリアム・ブロックチェーンのハッシュ生成の難易度を段階的に高めていく2つの構成要素のうちの1つで、現在、2021年に予定されているネットワークの大幅アップデート「セレニティ(Serenity)」でネットワークをPoSに移行させることが狙いだ。

ビットコインと同様に、イーサリアムもネットワークのマイニングに対する報酬のアウトプットをコントローするためのマイニング難易度調整の仕組みを備えている。ディフィカルティボムはその一つだ。

ビットコインとは異なり、イーサリアムのディフィカルティボムはブロックをマイニングする時間を10万ブロックごとに通常10〜20秒増やす。ディフィカルティボムはブロックがマイニングされるタイミングに基づくため、ネットワークがその影響を感じる時を見極めることは、科学というよりは技術だ。

EPI 2387によってディフィカルティボムの開始が延期されれば、2015年以降3度目となる。1度目は2018年のビザンチウム(Byzantium)ハードフォークでの300万ブロックの延期、2度目は2019年2月のコンスタンティノープル(Constantinople)ハードフォークでの200万ブロックの延期だ。

出典 : Ethereum Magicians

決済に時間がかかるのはイーサリアムにとって珍しいことではない。データ・プロバイダーのイーサスキャン(Etherscan)が示す通り、ブロックタイムはビザンチウムとコンスタンティノープルの2回のハードフォーク前に急増し、それぞれ30秒以上、20秒以上に達した。

出典 : Etherscan.io

「コンスタンティノープル以降、ブロックタイムがより早くなったために、(高い取引手数料が)いつまたやってくるのかについての見通しが少し甘かったようだ」とイーサリアム開発者のエリック・コナー(Eric Conner)氏はプライベートなメッセージの中で述べた。

「イスタンブールの後の次のフォークまで時間があると考えていたが、実際にはもうゆっくりと始まっている」

予想よりも早い上昇を考慮して、コナー氏はEIP 2387にも含まれていたEIP 2384「イスタンブール/ベルリン ディフィカルティボムの延期」の草稿を書いた。6週間強で、ブロックタイムは13.1秒から14.3秒に増加したとコナー氏は指摘した。

ディフィカルティボムはイーサリアムの指数関数的な特徴であり、1秒の変化は今後に大きな影響をもたらす。

定期的なアップグレードを意識させる

イーサリアムにオリジナルで備わっていた機能だが、一部の開発者はディフィカルティボムを完全に取り除くことを要求している。結局のところ、不便になると、常に延期されてきた。

しかし、オリジナルの設計を維持することに論理的な理由を見出す人もいる。それはイーサリアム・クライアントに、ネットワークに遅れを取らないことを強いるか、あるいは運用コストの増大に直面させることになる。

「ある種の期限を守るための最も強力な議論は『何もしない』というオプションはないことを明確にすること」とイーサリアム開発者のミカ・ゾルトゥ(Micah Zoltu)氏はプライベート・メッセージで語った。

「問題は、利害関係者が単に注意を払わずに、クライアントをアップグレードしていないところにある」と同氏は述べた。

「ディフィカルティボムの意味は、人々が定期的なネットワーク・アップグレードに直面し、フォークに対して意識的な判断を行わなければならないようにすることにある」

今のところ、EIP 2384は、イーサリアム開発者からのコメントを最終的に受け付けている。EIP 2387は11月29日の会議で大まかな意見の一致をみたが、実行の前に、EIP 2384の最終決定と、パリティー(Parity)やゲス(Geth)といったイーサリアム・クライアントによる受け入れを待っている。

「ディフィカルティボムを完全になくすという意見と、その機能を変えるだけにするという意見の間で揺れている」とゾルトゥ氏は述べた。

「私が反対していることは、ディフィカルティボムを現状のまま維持することだ」

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Shutterstock
原文:Ethereum Devs Reconsider ‘Difficulty Bomb’ Timing as Hard Forks Loom