暗号資産における相続税の計算方法

暗号資産(仮想通貨)は相続税の課税対象だ。しかし、毎年課税される所得税と異なり、相続税に触れる機会は少ない。どのように税金が計算されるか理解しないまま取引している人は多いだろう。

そこで本記事では暗号資産の相続税の計算方法について解説する。

なぜ暗号資産の相続に税金がかかるのか

暗号資産に相続税がかかる理由は、暗号資産が経済的な価値を持つ財産であると法令で規定されているためだ。

相続税法は、経済的に価値が認められる財産の相続を課税対象としており、暗号資産は資金決済法で経済的に価値がある財産と定められている。この旨は、2022年12月に国税庁が公表した「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」で解説されている。

相続税法では、個人が、金銭に見積もることができる経済的価値のある財産を相続若しくは遺贈又は贈与により取得した場合には、相続税又は贈与税の課税対象となることとされています。
暗号資産については、決済法上、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値」と規定されていることから、被相続人等から暗号資産を相続若しくは遺贈又は贈与により取得した場合には、相続税又は贈与税が課税されることになります。

国税庁 暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ)(2022年12月)

暗号資産の相続税の計算方法

そもそも相続税は、資産を保有している人が亡くなった後に遺産を引き継ぐ人が支払う税金だ。相続税と似て非なる税金に贈与税があり、これは資産を保有している人が生きている間に資産を引き継ぐ際に発生する。

それでは暗号資産の相続税の計算方法を説明していこう。

相続税の基本的なルール

相続税は以下のように計算する。大まかに、まずは全体の相続税を算出し、その後に実際の相続割合に応じて各相続人の税額を計算するという流れになっている。

【相続税の計算の流れ】

概要1億円(課税価格)を、配偶者が8,000万円、子2人が1,000万円ずつ相続する場合
手順1法定相続人の数から基礎控除額を計算3,000万円+600万円×3人=4,800万円
手順2課税価格の合計額から基礎控除額を差し引き、課税遺産総額を算出1億円-4,800万円=5,200万円
手順3課税遺産総額を法定相続分で案分配偶者(1/2):5,200万円÷2=2,600万円 子(1/4ずつ):5,200万円÷4=1,300万円
手順4法定相続に従って相続したと仮定し、速算表を用いて各相続人で相続税を計算し、相続税の合計額を算出配偶者:2,600万円×15%-50万円=340万円 子1人:1,300万円×15%-50万円=145万円 合計:340万円+145万円×2人=630万円
手順5相続税の合計額を実際の相続割合で案分し、相続人それぞれの相続税を算出配偶者(80%):630万円×0.8=504万円 子(10%ずつ):630万円×0.1=63万円
手順6各種の税額控除を差し引き、各相続人が納付する相続税を計算配偶者:0 子1人:63万円

※相続税の基礎控除=3,000万円+600万円×法定相続人の数
※配偶者は「配偶者の税額軽減 」を適用

【(参考)相続税の速算表】

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

【(参考)法定相続分の一覧】

配偶者 (第1順位)直系尊属 (第2順位)兄弟姉妹 (第3順位)
配偶者+子1/21/2  
配偶者+直系尊属2/3 1/3 
配偶者+兄弟3/4  1/4
配偶者のみ1   
子のみ 1  
直系尊属のみ  1 
兄弟のみ   1

※子、直系尊属、兄弟姉妹は、相続順位が最も高い者のみが法定相続人(配偶者は常に優先)
※子、直系尊属、兄弟姉妹が2人以上いる場合、均等に分ける

暗号資産の相続税評価額

相続税を計算する上で、活発な市場が存在する(暗号資産取引所が取り扱う)暗号資産は以下のように評価する。

【暗号資産の相続税評価額(活発な市場が存在する場合)】

  • 相続発生時に暗号資産取引所が公表する取引価格(※)
  • 相続発生時に暗号資産交換業者(暗号資産販売所)が提示する売値

※納税義務者(相続人)が複数の取引所で売買している場合は、任意の取引所を選べる

なお、活発な市場が存在しない暗号資産の場合、暗号資産の内容や取引実態などを勘案し、個別に評価される。

暗号資産を相続させるときに注意したいポイント

所有する暗号資産をリストアップする

暗号資産のようなデジタル資産は、相続人が把握しづらいケースが想定される。遺言書に暗号資産などをリストアップした財産目録を付し、相続人が把握できるようにしておくことが望ましいだろう。自筆証書遺言は自書によって作成しなければならないが、それに添付する財産目録はパソコンなどで作成が可能だ 。

税負担が重くなりそうなら保険も選択肢

預貯金や暗号資産のように、流動性の高い資産が遺産の多くを占める場合、相続人は遺産の中から相続税を納めることができる。しかし不動産のように早期の現金化が難しい資産が遺産の多くを占める場合は、相続人が自己資金による相続税の納付を強いられるケースがある。

相続人に重い負担が想定されるなら、生命保険に加入し、その保険金をもって相続税納付の原資とする方法を検討したい。なお、保険金も相続税の課税対象だが、「500万円×法定相続人の数」までは非課税だ 。

暗号資産を相続するときに注意したいポイント

相続が終わるまでは売買や出金は控える

暗号資産の取引を本人以外の者が行うことを「仮名取引」や「借名取引」といい、原則として法令で禁止されている 。また分割が行われるまでの遺産は相続人全員の共有物であり、その取引を無断で行うことはトラブルを誘引しかねない。

相続が終わるまでは、被相続人の暗号資産の取引や出金は控える方が無難だろう。

10カ月以内に相続税を申告する

相続税は、原則として相続が発生した日(被相続人の死亡日)の翌日から10カ月以内に納めなければならない 。期限までに相続税を納めない場合、延滞税が発生する可能性がある。延滞税の割合は、原則として期限から2カ月までは年率7.3%、2か月を超えてからは年率14.6%だ。

被相続人の債務にも留意する

相続では被相続人の借入金といった債務も引き継がれる。被相続人が債務超過に陥っている場合、相続人は相続でかえってお金を失ってしまうことになる。

被相続人の債務超過が明らかな場合、相続人は「相続放棄」を行うことも選択肢だ。また被相続人の債務が判然としない場合は、引き継ぐ財産の範囲に限定して債務を引き継ぐ「限定承認」を行うこともできる。これらは相続発生日から3カ月以内に手続きしなければならない。

なお、遺産をすでに処分した場合、債務も含めて無限に相続する「単純承認」したものとみなされ、相続放棄や限定承認ができなくなるため注意してほしい。

【民法921条「法廷単純承認」(一部抜粋)】

次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
1. 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき……
2. 相続人が……限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
3. 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき……

引用:e―GOV法令検索 民法

まとめ

暗号資産は相続税の課税対象だ。暗号資産は相続発生日の取引価格や販売所の売値などで評価され、他の資産と合算して相続税が計算される。暗号資産を相続させることを検討しているなら、銘柄をリストアップするなど相続人が把握できる工夫が望ましい。

暗号資産を相続する場合、期限に注意が必要だ。原則として相続発生日から10カ月以内に相続税を申告する必要があり、相続の放棄や限定承認を行うには3ヵ月以内に手続きしなければならない。税理士や弁護士といった専門家を頼るなら、早めの相談を検討したいところだ。