Mergeとイーサリアムが抱えるMEV問題

Mergeとイーサリアムが抱えるMEV問題

9月、長年の研究と開発の成果が「Merge(マージ)」として結実する。イーサリアムブロックチェーンが、プルーフ・オブ・ステーク(PoS)コンセンサスメカニズムへと移行するのだ。エネルギー消費量の多いイーサ(ETH)のマイニングが終わりを迎えることで、喜ぶ理由もたくさんある。

その中でもとりわけ、イーサリアムブロックチェーンが抱える長年の問題に影響があるかもしれない。MEV(最大抽出可能価値:Maximal Extractable Value、旧:マイナー抽出可能価値)である。2020年以降、5億ドル以上もの価値を生んできた、ブロック生成を基盤とするマイニング業界において、MEVは基盤となる考え方だ。

MEVの問題を考えるためにまず、略してメモプールとも呼ばれる、メモリープールについて見てみよう。

イーサリアムブロックチェーン上で取引を行うと、病院の待合室のようなメモプールにある他のすべての取引に加わることになる。マイナーが次のブロックに含めてくれるまで、そこで待つことになるのだ。ブロックがいっぱいになるとチェーンに記録され、取引が成功したとのメッセージを受け取ることになる。

これまでのところは、問題はなさそうだ。しかし、メモプールは「安全な場所」とは呼べないことが判明した。そこには、裁定取引のチャンスをとらえ、あなたにそのコストを負担させようと狙う高度なボットが存在するのだ。

MEVとは?

ボットが使う最も悪質な手口のひとつが、「サンドイッチ攻撃」と呼ばれるものだ。ボットが大口の取引を見つけ、取引をコピーして、ターゲットの取引に先立って自分の取引をブロックに含めてもらうために、少額の手数料を支払うのだ。

例を出して説明しよう。あなたが10ETHを持っていて、exampleCoin(EC)を2000トークン買いたいとする。お気に入りの分散型取引所(DEX)に行って、注文を出すのだ。

あなたの取引はメモプールに入り、ボットがそれを見つける。ボットはあなたの取引をコピーし、マイナーに「優先手数料」を支払い、自分の取引が先に行われるようにする。こうして、1ETHにつき200ECの価格で、ボットが2000ECを購入する。

次はあなたの番だ。1ETH当たり200ECを買うつもりだったが、ボットがあなたの取引をフロントランニングしたために、価格が変動した。1ETH当たり199ECしか買えなくなっている。そうして、10ETHで1990ECしか手に入らない。

あなたの取引が完了すると、EC価格は再び変動。今度は、1ETH=198ECとなる。つまり、ボットは手持ちの2000ECを10.1ETHで売ることができ、ものの数分で、0.1ETHの利益を上げることになるのだ。

大したことがない額に聞こえるかもしれないが、ボットは常に稼働しており、フロントランニングは長期的に見れば、非常に収益性が高い。

ボットをメモプールを放って行う、さらに高度な手口も多くある。このような動きで利益を最大限に引き出そうとする行為を総称してMEVと呼び、その多くが、フロントランニングと同じくらい面倒なものだ。

MEVは、実際のイーサリアムユーザーにとって大きな問題となっており、解決策も見つかってはいない。アルゴリズムのコード作成は簡単で、儲けは非常に大きい。MEVエクスプローラでは、このような行為をトラッキングするダッシュボードも用意されており、2020年1月1日に記録が始まって以来、7億ドル近くの利益が上がっている。

取り締まりをするとなると、イーサリアムの分散化という精神に反した中央集権型の組織が必要となるため、取り締まりは非常に困難だ。しかし、第三者組織が、ユーザーを保護する方法を考案し始めている。

例えば、フラッシュボッツ・プロテクト(Flashbots Protect)では、公開のメモプールを避けるために、プライベートサーバーを通じて取引を送ることのできるリモート・プロセジャー・コール(Remote Procedure Call:PRC)と呼ばれるサービスを提供している。

ザ・エデン・ネットワーク(The Eden Network)でも同様に、自社サービスを使う人たちが、取引がプライベートで処理されるネットワークにアクセスできる。

プルーフ・オブ・ステーク

Mergeが完了すれば、MEVも影響を受ける。イーサリアムのPoSシステムによって、新しい登場人物が誕生するのだ。ブロックビルダーである。彼らは取引の順番を決め、最終承認のためにブロックプロデューサーへと取引を送信する。

一方、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)システムでは、マイナーがメモプール内の注文を処理する順番を決定していた。

各ブロックは取引から構成され、各取引には異なる手数料や優先手数料がついているので、各ブロックの価値は、そこに含まれる取引によって変わってくる。そのためにブロックビルダーは、最も利益の上がるブロックを構成したいと考える。そのようなブロックはブロックプロデューサーによって優先され、最初に承認されるからだ。

新しいブロック構築市場でシェアを獲得しようとするプロトコルがすでに登場している。非常に利益の上がる業界となる可能性があるのだ。そして、MEVブーストという、MEVの抽出をよりアクセスしやすく、平等にすることを目指すものも存在する。

詳細は省くが、プロトコルが最も利益の上がるブロックを作成できれば、ブロックプロデューサーはそのブロックを最初に完了させる。こうなると、彼らのサービスにより多くのユーザーが惹きつけられ、それによって一段と大きな取引のプライベートプールから選ぶことができようになる。さらに優れたブロックを生み出すこともできるようになるのだ。このように、好循環が続くわけだ。

イーサリアムの開かれたトラストレスのシステムにつけ込むボットへの解決策が、誰よりも上手くシステムにつけ込み、ユーザーに利益を還元するプロ集団に見出せるというのも、奇妙な話だが、これが上手くいくかもしれないのだ。

ネイサン・トンプソン(Nathan Thompson)氏は、暗号資産取引所バイビット(Bybit)のテックライターである。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:How ‘the Merge’ Will Change the Weird World of Ethereum Mempools

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