トランプ大統領のビットコインのツイートがもたらす変化

はっきりさせておこう。ビットコインと、フェイスブック(Facebook)の仮想通貨リブラ(Libra)に対するドナルド・トランプ米大統領の批評を非常に重要なものにしたのは、2019年7月11日付のツイートの中身ではない。

トランプ大統領が、自身は「『はっきりとした基礎を持たず』『非常にボラティリティが高く』『不法な行為を助長する』仮想通貨の『ファンではない』」と公言したことや「『アメリカドル』という名の『頼もしく信頼できる』通貨」の方がずっと好ましいと述べたのは驚くべきことではない。

重要なのは、現役の大統領が仮想通貨に言及したという事実そのものなのだ。確かに価格の観点から言えば、トランプ大統領の軽蔑的な発言は結局のところ、ビットコインにとってプラスとなるものだ。2019年7月12日(現地時間)夕方までには、ツイート以後の価格変動がそのことを反映している。

さらに重要なことに、今回のツイートは、マネーと政策を巡る公の会話において、徐々に確実に増している仮想通貨の持つ存在感を象徴する節目となるものだ。

グローバルなマネーシステムの形を巡る壮大な戦いの始まりともなる。

買うことのできない注目

トランプ大統領の侮辱ツイートがビットコイン価格にとってなぜプラスとなるのだろうか。成功のためにはビットコインは現実世界に意味を持ったものである必要があるが、今回のツイートは少なくとも、権力の中枢がその意味を認めるものだった。

単に言及するということだけで、トランプ大統領はアメリカの権力機構の高いレベルにいる人たちが、仮想通貨テクノロジーが権力機構に突きつける課題を認識していることを認めたのだ。

もう一つ重要なのは、今回のツイートが、連邦準備制度理事会(FRB)議長のジェローム・パウエル(Jerome Powell)氏が上院への証言で、ビットコインを支払いの手段ではなく「金に代わるもの…価値の保存…投機的な価値の保存」と表現してからすぐになされたという点だ。パウエル氏は、トランプ大統領のお気に入りの批判対象の1人である。

パウエル氏は、同氏自身がビットコインを金(ゴールド)のようなものと考えていると言った訳ではない。大半のビットコインユーザーが現在、ビットコインをどのように扱っているかに言及したもので、そういう意味では、同氏は単に事実を述べていたに過ぎない。それでも、古代からの価値保存手段である金に代わるデジタル時代の産物であるというビットコインの主張にある種の正当性を与えた。

法定通貨時代に金が、国家通貨に内在する政治的リスクへの防御策としてどのように使われていたかを考えると、この2つの発言はビットコインが21世紀における金の役割を果たすべきと主張する人にとってこれ以上は望めないようなものであった。

考えてみてほしい。世界で最も強力な中央銀行の人間にビットコインをそんな風に形容させることに成功したのだ。その直後、世界で最も強力な政府を指揮する利己的な政治家によるツイートが、そのような防御の必要性を示した。

リブラを背景に起こり続けること

これらはすべて、2019年6月のソーシャルメディア大手フェイスブック(Facebook)主導の仮想通貨プロジェクト「リブラ(Libra)」の発表を背景として起こった。

強力で物議をかもす企業が急進的な新しいアイデアをローンチする時には避けられないことだが、リブラの登場は、仮想通貨が繁栄する場であり、私が「ナラティブ(物語風)経済」と呼ぶものを大いに増幅させた。

フェイスブックの抱える27億人のユーザー基盤から生まれるそのグローバルな潜在的影響力で、リブラは企業リーダー、銀行家、そして最も重要なことに、政府リーダーといった人たちに仮想通貨について考え、話しをすることを余儀なくさせている。

そのことが、米上院銀行・住宅・都市問題委員会の議長マイク・チャポ(Mike Chapo)氏によるパウエル氏宛ての質問を促し、FRB議長パウエル氏の回答の中心にもなった。そしてトランプ大統領の3つのツイッターの投稿に、リブラが「ほとんど地位も信頼性もない」として、運営には銀行免許の取得が必要になるという一節が含まれていたことを考えると、トランプ大統領にツイッターという手段を取らせたのも、明らかにその影響力である。

リブラプロジェクトがドルと競争することは許されてはならないと警告したマキシン・ウォーターズ(Maxine Waters)委員長によって召集され、7月17日の下院金融サービス委員会のリブラに関する公聴会の直前であったことも忘れてはならない。

トランプ大統領とウォーターズ氏の間で問題に関して同様の姿勢が見られることそのものが、歴史的な事態だ。しかし、そのことは繰り広げられている権力抗争も示唆している。高まる議論は我々の金融システムの構造、そして、政府、マネー、権力のシステムに深く組み込まれた銀行という名の、システムを管理する仲介人の支配に関するものである。

支配的な法定通貨システムの番人としての銀行、さらには銀行を規制する方法を決定する政治家は、ビットコインなどの分散型仮想通貨や、リブラのような企業が支える民営の通貨の使用を困難にすることができる。トランプ大統領のツイートはその高い具体性のために、銀行業界に利害を持つ誰かが下書きをしたかのように疑わしく見えた。

仮想通貨にフタをする

しかし、これらすべての仮想通貨にフタをすることは政府にとって簡単ではない。ビットコインでもリブラでも、大半の仮想通貨はオープンソースのソフトウェアに基づいている。政府はそういったソフトウェアを禁止することができるのだろうか。厳密にはイエスだが、そのような取り組みをいかにしてグローバルに連係させるのだろうか、どのように止めるのだろうか。

ところが実際には、多くの中央銀行が突然「打ち負かすことができないなら、仲間になろう」戦略を採用しているように思われる。

中国国営メディアのチャイナデイリー(China Daily)は7月9日、中国がデジタル資産を導入する計画を加速させていると報じた。この報道は、国際決済銀行(Bank for International Settlements)のアグスティン・カルステンス(Agustin Carstens)総支配人が、中央銀行は「我々が想定するより早く」デジタル通貨を導入するだろうと述べた1週間後になされた。

数か月前に仮想通貨プログラマーに対して「マネーを生み出そうとするのは止めるように」と言い、中央銀行のデジタル通貨にいかなる価値も認めなかった人物にしては、驚くべき態度の転換だ。

6月のリブラの発表と時を同じくして、イギリスの中央銀行に当たるイングランド銀行のマーク・カーニー(Mark Carney)総裁は、イングランド銀行がテクノロジー企業に資金を提供すると述べ、衝撃を与えた。イギリスのEU離脱が銀行業界を脅かしている時期に、イギリス政府におけるフィンテック開発の先陣を切るための明白な動きであった。

そして、リブラやその他のステーブルコインが新しい「ナローバンキング(預金を集めて国債などの安全な資産で運用し、振込・送金などの決済は行うが、貸付業務は行わない銀行業務)」支払いサービスを提供するための大きなチャンスとなるものだ。

事態は大いに混乱を極める兆しを見せている。つまり、民間企業の通貨、分散型仮想通貨、政府主導のデジタル通貨がすべて、マネーの世界での優位を競っている。リブラのおかげで、というよりもその前のビットコインのおかげで、通貨のイノベーションを巡るナラティブ経済は著しく増大している。

ストーリーのコミュニティー

騒ぎが高まるにつれて、ますます多くの人がビットコインのような、主流通貨に代わるものについて調べて検討することになるだろう。そのような選択肢がもたらすチャンス、リスク、そして破壊的な課題とも向き合うことになる。

本質的には、大掛かりな共同ストーリーテリング訓練が盛り上がりを見せているのだ。ストーリーはいつでも、新しいアイデアの普及を促し、そういったアイデアを中心として形作られた社会的ネットワークや、コミュニティーの土台となる感情の結合組織を築いてきた。そして共有されたアイデアを中心としたコミュニティーの発展が、究極的には通貨を支える。

6200万人のツイッターフォロワーを抱えるトランプ大統領は、ほぼ間違いなくどのニュースネットワークよりも大きな情報伝達力を持ち、この共同ストーリーテリング訓練に貢献している。「ホドラー(HODLer)」や「トゥ・ザ・ムーン(To the Moon)」の仮想通貨愛好家の対極に立つ引き立て役かもしれないが、そんな役割でも大統領は、反抗を煽り、反対派に反論を促し、そしてもちろんミームによって、ナラティブを押し進めている。

ここでトランプ大統領のツイートが、どんな政府職員による他の発言よりも、今回のトピックを巡る騒ぎを促すのに役立ったと判明することを確実にするもう一つの要素へと行き着く。ツイッターそのものだ。

ツイッターは、トランプ大統領が国民とコミュニケーションを取るためのお気に入りの手段であるだけでなく、仮想通貨のナラティブ経済の最も重要な部分も占める。大統領による3つの短い投稿に反応する備えのできていたコミュニティーがあるとしたら、それはクリプトツイッターであり、皮肉とユーモアと情熱の特別な混ざり合いによって即座に反応した。

すべての行き着く先は見当もつかない。しかし一つ確かなことがある。仮想通貨を巡る騒ぎはさらに激しくなった。

翻訳:山口晶子
編集:佐藤茂
写真:Shutterstock
原文:What Trump’s Bitcoin Tweet Changes