「ブロックチェーン修士号」を取るならマルタ島へ

地中海の「ブロックチェーンの島」、マルタには分散型台帳プラットフォームに対する政府の保証およびスマートコントラクトとICOローンチのフレームワークを管理する規制がある。

そして今、ブロックチェーンの修士プログラムも登場した。

マルタ大学のブロックチェーンおよび分散型台帳技術(DLT)の修士プログラムは2019年10月に初の学期が始まり、約35人の学生がマルタにしかないDLTに特化したこのプログラムに入学した──世界でも非常に珍しい修士プログラムだ。

これはマルタでのブロックチェーン関連の取り組みにおいて最も新しいもの、マルタのブロックチェーンへの取り組みは2年目を迎えている。

2017年4月、ジョゼフ・ムスカット(Joseph Muscat)首相はマルタがブロックチェーン技術において「世界の先駆け」となるための計画を発表した。計画は世界のほとんどの国のDLTへの反応とはまったく対照的だった。多くの国はDLTに対して否定的で取り組みは遅かった──今もそうだ。

だがマルタの人々は早かった。議員たちはブロックチェーンに前向きな法律と業界の有名プレイヤー──世界最大規模の仮想通貨交換所「バイナンス(Binance)」や「オーケーエックス(OKEx)」などを認め始めた。オーケーエックスはマルタ島への移転を発表した。

1年もしないうちに、計画は効果を表した。仮想通貨企業がマルタに進出し、今も多くの企業が進出中だ。

修士プログラムのディレクターであり、マルタのデジタル・イノベーション・オーソリティ(Digital Innovation Authority)のトップでもあるジョシュア・エリュール(Joshua Ellul)氏は、すでにDLTプログラムの学生に15社が接触していることに加え、政府が運営するプロジェクトなどから強い需要があるとCoinDeskに語った。

高度なトレーニングを受けた、ブロックチェーンに習熟した人材を多くの企業が求めている。

「そして今年はこれ」とエリュール氏は10月3日、マルタのデルタ(DELTA)サミットで多くの学生たちに向けて語り、マルタ大学のDLT修士プログラムをスタートさせた。

「将来のブロックチェーンとDLTの専門家がこのブロックチェーンの島をリードし前進させる」

もちろん、政府から少しの助けを借りつつ。

業界の断絶

2018年、マルタ政府はプログラムの奨学金として30万ユーロ(約3600万円)を用意した。プログラム開発にも参加しているとエリュール氏は語った。

プログラムでは、ブロックチェーンの法律と規制、ビジネスと金融、情報通信技術を学ぶ。学生たちは他の2つの分野にも触れながら、3学期を専攻に費やす。

エリュール氏は、この大学の多様性は幅広い知識基盤にプライオリティを置いていると述べた。ブロックチェーンの専門家たちはこの業界の専門家だが、他の領域と結び付けることができていないと同氏は語った。

つまり、プログラマーは法的な問題を知らない。弁護士はビジネスの立ち上げ方を知らない。起業家はプログラムの書き方を知らない。

「技術者と弁護士とビジネスのプロの間にある極めて大きな問題に気がついた」とエリュール氏。

「我々の間にはコミュニケーションの断絶があった」

これが同氏にアイデアを与えた。

「我々は『ここは、異なる専門分野における学際的な目的を追求する修士にとって完璧な場所になる』と考えた」

プログラムはエリュール氏と、マルタ大学コンピューターサイエンス学部の教授であり、DLTセンターのメンバーでもあるゴードン・パーチェ(Gordon Pace)氏が開発した。DLTセンターはエリュール氏が率いている。

マルタのDLTセンターはブロックチェーン修士プログラムを担当する。センターは修士プログラムの試験場、シンクタンクとなり、大学の教授陣が何を含めるべきかについて見解を示した。

パーチェ氏はヨーロッパ中を回って、在野の専門家たちと話をしたとCoinDeskに語った。

「彼らが何を求めているか、どのようなタイプの専門家を必要としているかがわかった。極めて初期の段階から、広範な、だが深いプログラムにするという考え方だった」

プログラムを書く弁護士

修士プログラムは学生たちに、仮に他のブロックチェーン分野で非常に特殊なツールを使うとしても、ある程度の有用性を備えた徹底的なフレームワークを提供する。

パーチェ氏はスマートコントラクトを研究する仮想通貨に特化した大学に来る以前は、ソフトウエアの品質保証技術でキャリアを積んでいた。同氏は学生にスマートコントラクトのあらゆるバックグラウンド──すなわち同氏が「爆発寸前の時限爆弾」と呼ぶ、価値における技術の進歩を教える。

12月には同氏は弁護士とビジネスパーソンを対象にスマートコントラクトのプログラムの講義も始める。

「彼らの反応があなたと同じでないと良いのだが」とパーチェ氏はレポーターに語った。レポーターは過去にプログラム言語の習得に取り組み、失敗していた。

しかし専門分野の断絶を埋めることはパーチェ氏の大学での得意領域。このプログラムはICT専攻の学生をスマートコントラクトの達人にするかもしれないが、それほど技術志向ではない学生がこの領域に進むために必要な知識を向上させることにも役立つだろう。

「修士号よりもテクノロジーに精通した人物になるという考えが重要だと考えている」

CoinDeskの取材に答えたICT専攻ではない学生はこの意見に同意した。マルタ大学で法律とビジネスを学んだジェシカ・ボーグ(Jessica Borg)氏は聴講生としてブロックチェーン規制を学ぶために大学に戻ってきており、次の学期では正式に講座を取る予定だ。

ボーグ氏は企業監査などを手がけるGrant Thornton Maltaの企業・金融サービスマネージャー。同氏は政府のブロックチェーン企業への力の入れ方の影響を目の当たりにしたと語った。

マルタの規制環境を活用しようとしている企業は「非常に多く、多くの関心を集めている」と同氏は語った。それが同氏の受講理由の1つでもある。

「私が関わる規制分野の成長において、これはまさに次のステップだと考えた」

技術の進化

プログラムディレクターのエリュール氏は、ビジネス実務、規制、技術が急速に進化する分野であるため、修士プログラムの設計とローンチは容易ではないと認めた。学生が1年間で学んだことは翌年にはすぐに的外れなものになっているかもしれない。

だが、ほとんどの技術系プログラムはこの課題に直面している。そしてエリュール氏は、マルタ大学は日々の問題に対処するために時間とともに変化すると述べた。

同氏はこのプログラムがいつの日か生み出す、学際的な学生の能力に大いに興味を持っている。

「おそらく時間の経過とともに、我々はプログラマーであり弁護士でもあるハイブリッドな人材のトレーニングの検討を始める必要がある。ローグラマー(law-grammer)あるいはローベロッパー( law-veloper)と呼ばれるような人材」とエリュール氏はCoinDeskに語った。

「我々にそれができるかどうか、判断するにはまだ早い」

翻訳:下和田 里咲
編集:増田隆幸
写真:Image courtesy of University of Malta
原文:You Can Now Get a Master’s in Blockchain From a School in (Where Else?) Malta