【暗号資産】金融庁が内閣府令・ガイドライン案提示、一貫性に疑問符──改正金商法施行まで数ヵ月

【暗号資産】金融庁が内閣府令・ガイドライン案提示、一貫性に疑問符──改正金商法施行まで数ヵ月

Brady Dale
公開日:2020年 1月 24日 15:00
更新日:2020年 1月 24日 15:00

セキュリティ・トークンや仮想通貨のレバレッジ取引など、ブロックチェーンを用いたデジタルな金融について、改正資金決済法や改正金融商品取引法が今春施行されるのを前に、金融庁がその具体的な内容を定める政省令案や内閣府令案などを公開した

焦点は、電子記録移転権利(セキュリティ・トークン)や仮想通貨のデリバティブ取引、暗号資産カストディの規制についての取り扱いだった。発表された府令案の中には業界関係者にとって厳しい内容も含まれているだけでなく、これまで業界内での議論にはなかった新たな論点も突然含まれていることが判明。改正法の施行を目前に控え、議論が続きそうだ。

現在は意見を募集中(パブリックコメント)で、2月13日に締め切られる。当初は2019年内にも府令案などを発表すると見られていたが、2020年に持ち越していた。

焦点1 デジタル証券の適用除外要件──議論されていない新たな論点が浮上

1月14日に発表されたのは、政省令案や内閣府令案など。焦点の一つが「電子記録移転権利」の適用除外要件がどうなるか──ということだった。公表された府令案からすると、電子記録移転権利としてのセキュリティ・トークンを活用するのは難しくなりそうだ。大和証券グループ傘下のFintertechは内閣府令案について、ブログ記事で「個人投資家保護という大義は理解できるものの、ビジネス推進上は厳しい内容になった」と評価した。

府令案で示された適用除外要件について見る前に、背景を確認しておこう。昨年成立した改正金商法では、二項有価証券をトークン化したものは「電子記録移転権利」に位置づけられることが決まっていた。有価証券をトークン化すると、事実上ブロックチェーン上で容易に流通させられるため、もともとは二項有価証券であっても、一項有価証券並みの規制に服することになった。

つまり、従来は二項有価証券としての規制がかかっていた信託受益権やファンド持分などをトークン化した場合、より厳しい一項有価証券並みの規制が適用されてしまうことになってしまう。

そこで重要と考えられたのが、規制が緩くなる除外要件がどのようなものになるのかということだった。改正金商法では、「流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定める」とされていたため、昨年から内閣府令案でどのような要件になるかが注目されていたのだ。

今回発表された内閣府令案は、電子記録移転権利の除外要件として、適格機関投資家や1億円以上の資産を有する個人であること、また権利の移転の際にも発行者の同意を必要とする技術的措置などを求めることとした。

これは、たとえ適用除外要件に認められ二項有価証券並みの規制が適用されたとしても、広く個人が購入できるようになるわけではないことを意味する。重い開示規制がかかるため、スタートアップなどが小規模に調達(自己募集)できるわけではなくなった。

複数の業界関係者からは、適用除外要件を狙うのではなく、「一項有価証券として発行する例が増えるだろう」との声が上がった。

除外規定のガイドライン案、ブロックチェーンがプライベート型なら「電子記録移転権利」にならない?

ところが、府令案とは別に、除外規定についてガイドライン案も示された。それによれば、ブロックチェーンがコンソーシアム型やプライベート型で、データを取引当事者らが直接見られないなら、基本的に「電子記録移転権利に該当しない」と読み取れる。

具体的には、ガイドライン案には「電子帳簿が発行者等の内部で事務的に作成されているものにすぎず、取引の当事者又は媒介者が当該電子帳簿を参照することができないなど売主の権利保有状況を知り得る状態にない場合には、基本的に、電子記録移転権利に該当しない」とある。

金融商品取引法等に関する留意事項について
金融商品取引法等に関する留意事項について

この“発行者等の内部で事務的に作成されているもの”は、プライベート型やコンソーシアム型のブロックチェーンに限定しているように読み取れる。つまり、有価証券をトークン化する際に用いるブロックチェーンが、自ら管理するプライベート型やコンソーシアム型の場合で、そのデータを顧客が直接読み取れないなら、電子記録移転権利に該当しない可能性があるということだ。

この規定がどのように運用されるかは定かではないが、業界関係者は「ガイドラインで示された除外規定は、これまでに議論されていない内容で、突然示されたもの。他の箇所でも散見される」と困惑の色を見せた。

焦点2「レバレッジ倍率、2倍に」──既存の取引所はより厳しい事業環境に

2つ目の焦点は、暗号資産取引所が仮想通貨のレバレッジ取引の倍率だ。改正金商法では暗号資産が定義された。その暗号資産の交換をビジネスとする取引所にとって、「レバレッジ取引」は利益を稼ぐための重要な商品であり、利用者にとって現物よりも取引量の多いサービス。府令案で、このレバレッジ取引の倍率がどうなるかは、取引所にとって死活問題だった。

その暗号資産のレバレッジ取引について、証拠金倍率を2倍までとする案が示された。これまでは業界団体の仮想通貨交換業協会が4倍の倍率に自主規制していたが、2倍まで引き下げられると、さらに取引量が減ることが予想される。

このような事業環境と規制強化の流れにより、廃業を迫られる取引所も出てくるだろうと、仮想通貨ビジネス協会会長の廣末紀之氏はCoinDesk Japanのインタビューで指摘している。

この府令案について、現在、トレーダーの間でパブリックコメントを呼びかける動きも広がっている。

焦点3「暗号資産カストディ」──既存金融機関は手が出しにくい状況に

最後の焦点は暗号資産カストディの定義だ。暗号資産カストディとはビットコインなどの暗号資産の管理を指すが、昨年成立した改正資金決済法では「他人のために暗号資産の管理をすること」とされただけで、定義はあいまいだった。

しかし今回発表されたガイドライン案は、暗号資産カストディの解釈について「個別事例ごとに実態に即して実質的に判断するべき」としながら、「事業者が主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にある場合には、同号に規定する暗号資産の管理に該当する」という方針を示した。

この案が適用されると、暗号資産を集約的に管理する事業を営む企業には、すべて暗号資産交換業の認可が必要になる。国内を拠点とする小さな事業者では、暗号資産を管理できなくなると見られる。株式のように個人の価値を取引できるVALUがサービス開始からわずか2年半で、ビットコインの管理などを終了すると発表したのも一例だ。

ただし重要なのは、ガイドライン案に、暗号資産カストディに当てはまらない設計が提示されたと解釈できる記述があることだ。該当箇所を読むと、「利用者の関与なく、単独又は委託先と共同して、利用者の暗号資産を移転でき得るだけの秘密鍵を」有しない場合には、暗号資産のカストディには当てはまらないとの見方ができる。

つまり、暗号資産を移転するために複数の秘密鍵が必要なマルチシグネチャーなどの技術を使えば、事業者が主体的に移転できないように設計できるため、暗号資産のカストディに当てはまらない可能性があるということだ。

この場合、暗号資産交換業の認可を取らずとも、設計によって暗号資産を用いたビジネスを展開できるかもしれない。今後の運用がどうなるかが、注目される。

既存金融機関の暗号資産現物の信託、難しく

また改正資金決済法には、上述の「他人のために暗号資産の管理をすること」という定義には除外規定があり、「当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く」とされていた。そこで、除外される規定がどうなるか、ということも焦点だった。

しかし内閣府令案では、信託銀行などが兼営業務として暗号資産現物を信託できないとされた。さらに銀行の持株会社や子会社も、暗号資産の信託ができないように定められた。事実上、除外規定に当てはまるのは単独の信託会社などに限られるため、有力な信託会社が扱うことは難しい。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所の長瀨威志弁護士は、「暗号資産カストディの重要性が将来的に高くなると予想されるなか、信託銀行で扱えないようにするのは得策とは思えない」と述べている。

パブコメに対する回答は3月ごろ、5月ごろに改正法施行か

そのほか暗号資産のリスク算定についても、非常に重い基準が適用されることになりそうだ。既存の金融機関向けの総合的な監督指針でも、「暗号資産は…(中略)…本源的な価値を観念し難」いと述べ、「暗号資産の取得は必要最小限度の範囲とする必要」があるとした。暗号資産についての厳しい目線が、改めて明らかになった。

複数の業界関係者からは「暗号資産について、産業を育成しようとする気が見えない」との声も上がっている。

政省令案・内閣府令案などについてのパブリックコメント期間は、2月13日までで、その後、3月ごろには回答が示されると見られている。

改正資金決済法や改正金商法は2020年5月頃に施行される。その後、カストディ規制やデリバティブ規制などについては6カ月間の移行期間が設けられる。

2020年はデジタル証券など、ブロックチェーン上の価値がデジタルな価値として認められる。しかし、焦点1や焦点3の項目で触れたように、今回発表された府令案とガイドライン案を通してみると、これまで議論されていない内容の規定も見られる。業界で困惑が広がる中で実施されているパブリックコメントへの注目が集まるのは間違いない。

文:小西雄志
編集:濱田 優
写真:TK Kurikawa / Shutterstock.com