「ブロックチェーンスマホ」は何ができるのか?──サムスン、HTC、シリンラボ、フォビ、プンディXほか

サムスン、HTCなどのスマホ企業やフォビ(Huobi)など仮想通貨取引所も発表、計画しているブロックチェーンスマホ(ブロックチェーンフォン、ブロックチェーンスマートフォン)。先駆けとして知られるのはシリンラボ(Sirin Labs)の「フィニー(FINNEY)」だろう。そもそもブロックチェーンを活用したスマートフォンでは何ができるのだろうか。どんなメリットがあるのだろうか。日本企業の取り組みはあるのだろうか。

ブロックチェーンスマホとは何か? 何ができるのか

ブロックチェーンスマホ(ブロックチェーンフォン)は、ブロックチェーン技術を利用したスマートフォンのことを指す。OSはAndroidなど一般的なものもあれば、独自のOSを搭載したもの、あるいはその両方を搭載したハイブリッド版がある。

これまで発表されているほとんどのブロックチェーンスマホは、カメラやメールなど一般的なスマホが持つ機能のほかに、暗号資産を管理できるウォレット機能(ハードウェアウォレット)を搭載している。言い換えれば、ブロックチェーン技術を活用する機能以外はほかのスマホとさして変わらない。

たとえば後述するプンディXの「BOB」(コードネーム:XPhone)はAndroidと同社独自のOSを搭載。Androidモードとブロックチェーンモードを切り替えて使えるという。Androidモードでは一般的なスマホと同じだが、ブロックチェーンモードにすると、メールの送信などデータのやり取りはFunction Xブロックチェーンで実行される仕組みだ。

ブロックチェーンのノードになる機種も登場

ブロックチェーンは、P2Pネットワークに接続するパソコンなどの端末(ノード)にトランザクションデータ(取引データ)をブロックという単位で分散して保管する仕組みだ。

多くのブロックチェーンスマホは、何もブロックチェーンのノードになるわけではないようだが、前出のPundi XのBOBはFunction Xブロックチェーンのノードとして機能するほか、後述するHTCの「Exodus 1s」もフルノードとして機能するという。

ブロックチェーンスマホ、各社商品の現状は?

・シリンラボ(Sirin Labs)「フィニー」――世界初をうたうブロックチェーンスマホ

SIRIN LABS「FINNY」

スイスのシリンラボが発表、日本でも2019年に公開したスマホ。Android端末に独自の「SIRIN OS」を搭載。シリン OSにはコールドウォレット、マルチブロックチェーンDAppストア、トークンコンバージョンサービスなどといった暗号通貨やブロックチェーン関連の機能が実装されている。コールドウォレットは、通常時はオフライン状態だが、スマホ本体上部をスライドすると有線接続でき、オンライン状態になる。本体価格は999ドル。

・サムスン「クレイトンフォン(KlaytnPhone)――カカオとのコラボ、韓国内のみ発売

サムスンが発売するのが、フラッグシップモデル「ギャラクシーノート10(Galaxy Note 10 )」に仮想通貨ウォレットをプリインストールした新モデル。メッセージングアプリ大手のカカオ(Kakao)とのコラボレーションによるもので、カカオのブロックチェーンネットワーク「クレイトン(Klaytn)」にちなみ「クレイトンフォン(KlaytnPhone)」と名付けられている。

購入者には、カカオのブロックチェーン子会社グラウンドXが発行する仮想通貨「クレイ(Klay)」を一定額付与するという。サムスンの「クレイトンフォン」は韓国のみで販売し、価格は124万8500ウォン(約11万円)。

・HTC「エクソダス(Exodus) 1」――年内発売の後継「1s」は300ドル以下に?

HTC「Exodus 1」

台湾のスマートフォンメーカーHTCが発売しているブロックチェーンスマホ「Exodus 1」。本体スペックは同社のフラッグシップの「HTC U12+」とほぼ同じ。OSはAndroidだが、仮想通貨の保存に使う「Zion Wallet」というウォレットは、Android OSとは隔離された場所に搭載されているという。デフォルトのブラウザとしてOperaを採用している。

当初、購入はビットコインまたはイーサリアムのみだったが、ライトコインや取引所のバイナンスが扱うBNBトークンによる支払い、さらには米ドルなどの法定通貨でも買えるようになった。価格は699ドル。

またHTCは後継機種「Exodus 1s」の年内リリースを発表している。特徴はビットコインブロックチェーンのフルノードとして稼働できること。価格も前モデルの半額以下となる250~300ドルに設定されている。

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・Huobi「アキュート・アングル(Acute Angle)」――取引所のスマホ、トークンで購入

仮想通貨取引所のフォビが中国で発売しているのがブロックチェーンスマホ「アキュート・アングル(Acute Angle)」。近い将来、欧米でも発売される予定だ。OSはAndroid。取引のプッシュ通知、分散型アプリケーション(DApp)対応ウォレット、コールドウォレット対応プラグイン、独自のNODEトークンなどの機能を標準搭載している。価格は515ドルで、フォビのトークン(HT)を使用して買えるという。

・プンディX「BOB」――テキスト送信機能もブロックチェーン上で

PundiX bob
PundiX BOB

コードネーム「XPhone」として発表されたプンディXのスマートフォン「BOB」。Block on Blockの略で、OSはAndroidと独自のf(x)(ファンクションX)。両モードを切り替えて使うことができ、Androidモードでは、Android 9.0で実行されている従来のスマホと同じように使える。 ブロックチェーンモードでは、BOBを介して送信されるデータのすべてのビットが、Function Xブロックチェーンで実行される。「BOBのすべてのユニットは、Function Xブロックチェーン上のノードとして機能する」と説明されている。価格は599ドル。

ここで紹介した企業のほかにも、韓国LGがブロックチェーン対応スマートフォン販売に踏み切る可能性が出ている。また中国の大手通信企業、中国電信(チャイナテレコム)が、5Gに対応するブロックチェーン対応スマホの構想を明らかにしている。

以上のように中国や韓国の企業が目立つ中、日本企業からブロックチェーンスマホの構想や計画を発表したとは報じられていない。だが、そもそもほとんどの日本メーカーがスマホ事業から撤退しており、ブロックチェーンスマホの構想が発表されなくても当然かもしれない。

DAppsとの連携で今後に期待?

仮想通貨や暗号資産の投資家なら注目したいブロックチェーンスマホだが、投資をする予定がない人にはまったく無関係なのだろうか?

それは仮想通貨取引以外の領域でブロックチェーンがどのように使えるか、ということに直結していると言えるだろう。たとえばゲーム。ブロックチェーンを活用したゲームの中には、既に高い人気を誇るものもある。ブロックチェーンスマホの浸透は、従来のスマホでソーシャルゲームを楽しんでいるユーザーがブロックチェーンゲームを楽しむきっかけになる可能性はある。

またブロックチェーン技術による分散化により、サーバーなどを介さず、機種同士で直接、暗号通話も可能になる。プンディXのBOBでは、ユーザーがテキストメッセージを送信する場合、「中央で管理されるモバイルキャリアなどではなく、ブロックチェーンで実行されるさまざまなアクションを介して送信」されるという。つまり「ユーザーはデータを自身で完全にコントロールおよび所有できる」(Mediumより)。こうしたブロックチェーンスマホの匿名性を高く評価する消費者は一定数、存在するはずだ。

ブロックチェーンスマホに関心を持っているのは、取引所、仮想通貨交換業者などだけではなく、データを取り扱う企業もその一つだ。

HTCのExodusは、台湾のスタートアップが開発したDApps「Numbers」をサポートしている。これはユーザーの歩行、睡眠、運転などのデータを、透明性を保持しながら企業に提供するものだ。NumbersのチームはThe Vergeに対して、いくつかの保険会社が関心を持っていることを明らかにしている。

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今後こうしたサービスの活用が進めば、匿名性を保ったデータを企業などに提供したユーザーが、経済的な利益を得られるようになるかもしれない。

文・構成:濱田 優
編集: 小西雄志
写真:各社Webサイト