DX推進における「6つの技術経営的課題」──KPMG茶谷氏と東大・茂木教授が議論【btokyo members】

ブロックチェーンのビジネスコミュニティ「btokyo members」によるオンラインイベント「アフターコロナの世界において企業が求めらている『新たなDX』とは何か?」が2020年6月11日、開催された。

KPMG Ignition Tokyo 代表取締役社長兼KPMGジャパン チーフ・デジタル・オフィサーの茶谷公之氏、東京大学の「ブロックチェーンイノベーション寄付講座」代表であり同大学院工学系研究科教授の茂木源人氏が参加し、コロナ以後の「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の在り方などについて議論した。

CoinDesk Japanがメディアパートナーを務めた本イベント。次回はオンラインで6月26日(金)午後、「ブロックチェーンから始まる『不動産』市場の大転換──『セキュリティトークン』から『流通のトレーサビリティ』まで」のテーマで開催される予定だ。

DX推進における「6つの技術経営的課題」

KPMG Ignition Tokyoは、KPMGジャパンとクライアント企業のデジタルトランスフォーメーションを支援することを目的に設立された。約100人の社員のうち60%は外国籍であり、26ヵ国のメンバーが集う「テクノロジスト」を中心とする組織。

代表を務める茶谷氏もまた、ソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)で最高技術責任者(CTO)を務め、プレイステーションの立ち上げからプレイステーション4の基本アーキテクチャに関わり、楽天では執行役員としてAI活用を推進してきた。

茶谷氏は「30年にわたりDXは着実に進んでいる。コロナ禍において、リモートワークが進んでいることを私たち自身が現在体験しているように、DXへの企業の関心は今までにないほど高まっている」と述べ、モノ・カネ・ヒトの経営資源における「6つの技術経営的課題」を指摘した。

茶谷公之氏のプレゼンテーションより(以下同)

「カネ」という視点について、茶谷氏は「(企業は新技術の領域についても)前年比○%といったように前年を踏襲しやすく、価値が目減りする『技術負債』への対応が遅れやすい」と、特に「企業の技術投資の難しさ」に言及。

さらに「初期のプレイステーションは半導体への投資が重要だったが、徐々にソフトウェアやネットワークへの投資が中心となった。最近でも、プレイステーションVRなどの付加価値になる周辺のハードウェアへの投資に軸足が移っている。技術トレンドを見ながら今後の主流となる技術を見極めて、会社の技術投資ポートフォリオを積極的に組み替えていくことが大切だ」と述べ、「技術経営」に立脚した企業の技術投資マネージメントの重要性を説いた。

アフターコロナの「New Reality」と向き合う

オンラインイベントでは、茶谷氏のプレゼンテーションに続けて、東京大学の茂木源人教授を加えてディスカッションを行った。議論のテーマとなったのは、茶谷氏が提示したアフターコロナ期における「New Reality」だ。

茶谷氏は、リモートが当たり前の環境のなかで育つ「リモートネイティブ」とも呼ぶべき世代が登場するだろう未来を予測し、リモート環境下における働き方・人材スキルの在り方に対する変化を注視すべきだと指摘。「オフィス勤務と在宅勤務」の使い分け、これまでの「大都市と地方都市」の議論も変わってくるだろうと「New Reality」に対する見立てを述べた。

「教育において何がデジタル化できて、何ができないのか?」の問いに対して、茂木教授は「そもそも大学教育は目に見えない無形資産を提供する場であり、オンライン講義を実施してから間もない今すぐに結果が出るわけではない。10年、20年と時間がかかる」と答えた。

その上で「もしDXが必然だとするならば、『何がいいものなのか?』それ自体が問われているのではないか。いい車に乗って、いいカバンを持って、いいレストランで食事することが幸せなのか? VR空間ならば『いらないよね』という結論もあり得る。必要なものが変わるタイミングであり、人間の価値観そのものが問われている」と、「New Reality」に対する自身の見方を述べた。

(右上から時計回りに)茶谷公之氏、茂木源人氏、久保田大海

オンラインイベントでは茶谷氏のプレゼンテーション、茂木教授を交えたディスカッションのほか、「リアルとサイバーの切り口に加え、VRやARをどうやって組み合わせていくか?」「New Realityで述べられている今後のトレンドについて、国によって方向性の違い、変化のスピードの違いはあるのか?」など、オーディエンスからの質問に答えるQ&Aセッションが行われた。

6月26日のテーマは「ブロックチェーンから始まる『不動産』市場の大転換」

次回のオンラインイベントは、6月26日(金)午後3時より、三井不動産株式会社のCVC部門でブロックチェーン領域のスタートアップへの投資なども行っている能登谷寛氏、株式会社LIFULL社長室でブロックチェーン推進グループ長を務める松坂維大氏、株式会社LayerX執行役員であり三井物産デジタル・アセットマネジメント取締役を兼務する丸野宏之氏の3名を招き、「ブロックチェーンから始まる『不動産』市場の大転換」をテーマに開催される。

文:久保田大海
編集:濱田 優
撮影:N.Avenue